岩手県奥州市、ロイヤルジャマイ館は、ジャマイカ情報の発信基地になっている


写真:ロイヤルジャマイ館

 「北国の岩手は、どちらかと言えば内向的で閉鎖的。レゲエも好きだったけれど、底抜けに明るい“カリブ海の楽園”にあこがれをもち、旅好きだったこともあって全部自分で手配してジャマイカを目指したのは25年前でしたね」

親戚からは、「危ないんじゃないの。何でそんなところに行くの?」と猛反対にあった。

大学を卒業してサラリーマンをやっていた時に2週間も会社を休んでのジャマイカ行きは、やむにやまれぬ思いが先だったのだそうだ。ジャマイカでの味体験の中、ジャークチキンに出会った。

「なんじゃこの味???」。東京の学生時代には、ほぼ毎日ぐらいカレーばかりを食べ歩きし、食に関しては敏感だった石川さんにとってもジャークチキンの味は、衝撃だったそうだ。

帰国してジャマイカに関していろいろ調べてみた。その頃のジャマイカ政府観光局は“Meet the people “というプログラムを展開していた。それは、普通の旅行でなくジャマイカ島内で体験したい事を希望するとそれを受け入れる家庭を紹介してくれて、ホームステイ型企画だった。

それを利用してモンテゴ・ベイのThe Native というジャマイカンキュイジーヌ専門店にお世話になった。レストランの厨房は、冷房もないサウナ状態で毎日汗だらけだったそうだ。だけどスタッフはみな親切で楽しくジャークの焼き方を学んだ。そこのオーナーシェフ、Ms.ステファン・エリーンは、料理の作り方だけでなく、ジャマイカ・フード・コンヴェンションなどに連れて行ってくれた。そこでは、ジャマイカ料理やカラフルなスイーツの新作発表などもあり、見ているだけでも刺激を受けた。

自分の店を開くにあたって考えた。「停滞する地域を活性化したい。店内、赤、黄、緑のジャマイカカラー一色でド派手に決めて人々の注目を集めたいと思っていた。開店にはTV、新聞などのメディアの取材が殺到して、まるでジャマイカのアンテナショップ状態だったそうだ。98年6月、サッカーのワールドカップの日本対ジャマイカ戦は、お客様たちとメディア関係者が店内にあふれて興奮状態。その後、陸上でボルト選手が優勝したりするとまたマスコミが集まってきて、ジャマイカ事情の取材を受けた。

色んなお客様が集まってくる中で「なんで、この店はお経を流してるんだ!」とBGMのレゲエに怒鳴る人とか、外国人のパーティの時は、店にあるラム酒を飲みつくして、隣家の玄関を壊して帰ったり、
「おれはアサファ・パウエルの友だち」だと言ってやって来たジャマイカ人などなど。

土地の人は喜怒哀楽をあまり表にださない。だから石川さんはお客さんに「どんな悩みがありますか?」と聞いてみる。悩みを聞いた後で「ジャマイカに行ってみてください。悩みなんか飛んじゃいますから」と続けるのだそうだ。話もうまいが聞き上手でもある。学校でも任意団体でも気が付けば牽引役、なんだかんだ人に影響を与える存在だったようだ。「自分の事はさておき、他人をなんとかしてあげたい。おせっかいなんだよね。ジャマイカ人と似てるわ」と笑う。

しかし、8年前の東日本大震災の時は、ライフラインが途絶え、物資もなく、ガソリンもなく、
報道されてなかった内陸部に位置する奥州市も実は被害がひどく、おまけに国の援助からは見放された地域だったそうだ。その頃、青年会議所の理事長もしていた石川さんは、ガソリンを求めて4時間もの長蛇の列に加わり、かき集めたコメでおにぎりを作り沿岸部に送り届けていたという。並んでいる途中、車の中で命を落とした人もあったという。胸が痛くなる話をいくつも聞いた。郷土の偉人、後藤新平の「人の世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そして報いを求めぬよう」。石川さんは、この言葉を胸に毎日を過ごした。店舗を立て直すに、5ヶ月はゆうにかかった。「起きたことは仕方ない前を向くという気持ちだった」。その間、ずっと無収入だった。報道されなかったとはいえ、東京でのんびりと暮らしていたわが身を顧みて、恥じ入るばかりだった。

石川さんには、菅原権太郎くんという25才の息子さんがいる。母方の名前を継いだのだそうだ。権太郎くんは馬術の選手でオリンピックをめざしている。筆者が数年前ロイヤルジャマイ館を訪ねたときに、近くにある岩手県馬術連盟の厩舎を見に行った。その時、石川さんは馬のたて髪を丁寧になでおろし「いつもありがとうな~」と声をかけていたのを思い出した。ちなみに権太郎くんのおじいさんは、馬の蹄鉄を打つ仕事をしていたそうだ。
中学時代の息子さんは、大谷翔平さんと同級生で、ともに甲子園をめざすほどの絆で結ばれていたそうだ。その後、彼は馬術部に入って日大に進学し活躍している。

石川さんは、次回、ジャマイカに行ったら息子さんと一緒に「馬に乗って海に入りたい(ビーチライド)」のだそうだ。

今後の目標を聞いてみた。「同郷の大谷君がいるロスで店をやってみたいですね。岩手県産の食材にこだわった料理を世界の人びとに提供してみたいです」。

守りに入る人が多い中で、前に進みたいという意欲がみなぎっている石川さんにたくさんの元気をもらった。

コンタクト

コンタクト先:
ロイヤルジャマイ館
特製のたれに漬けこんでスパイスで焼き上げるジャークチキン。
一度に2種類のカレーを味わってもらいたい2wayカレーなどがお薦めメニュー。

電話:0197-25-7555
Email:Jamaican_0814@yahoo.co.jp


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