会社人生の終盤において、世のため、人のために尽くしてみたいと思った。


レゲエ・マラソンで力走する柿内さん

 柿内さんは、大学の生産機械工学科を卒業して、航空会社で航空機のエンジニアとして長く勤めた。
「定年退職まで、あと2年。JICAのシニアボランティアに応募しました。JICAの募集要項にある生産性改善で申し込んだところ、対象となる国がたまたまジャマイカであって、2015年7月から2017年3月末までジャマイカ、キングストンに赴任しました」

赴任前、JICAの研修中にジャマイカについて学ぶ機会があり、夜の外出は禁止とか危険地域とかを聞かされて、最初から単身赴任を決めていたものの、不安は募るばかりだったそうだ。

勤務先はキングストンのJamaica Productive Center.(JPC)。 そこでの仕事は簡単に言うと「5Sなどのカイゼン手法を展開し、中小企業の低い生産性を改善して収益性アップの仕組みを作ること」だったそうだ。

5Sというのは、整理、整頓、清潔、清掃、しつけの頭文字とのこと。長い間の規則正しい会社勤務が身についている環境から離れて、JPCでの毎日の出来事は、はじめのうちは、イライラが募ることもあったという。例えば、事前に多くの時間を費やして検討した案件でもいとも簡単に指導先からドタキャンをされる。それを彼らは悪いとも思っていないし、問い詰めれば自分の正当性を言い続ける。そういう文化、習慣の違いに、とまどったそうだ。
「自分が外国人だという事に加えて国家機関であるJPCは民間企業に懐疑的にみられる面が多く、指導先の企業との信頼関係を構築することが難しかったし、指導がスムーズにいくようになるまで半年以上はかかった」と柿内さんは振り返った。

工場で指導する時でも日本の手法を押し付けても彼らは何もしないという状況を目の当たりにし、悩みに悩んだあげく、ゴミ拾いのボランティア活動にかけたレゲエをカイゼン活動に活用することを思いついた。「工場内でレゲエをかけたところ、みんなノリノリでカイゼン活動に取り組み始めたんです」。このスタイルを作ってからはうまくいったが、そうなるまでは、試行錯誤を続けながら、とにかく陽気な彼らの琴線に触れるものを活動に取り入れることが大事だったという。

そんな毎日の中で、余暇の時間を使った水泳教室、ランニング、ゴミ拾いなどの活動を通じて彼らの日常生活を知り、習慣、歴史を学んだ。はじめは怖くて行けないと思っていたコロネーション・マーケットも知り合いになったジャマイカ人が連れて行ってくれたおかげで、売り場の人たちとも親しくなり“こっちにおいで”と手招きしてくれる人間関係ができたときは本当にうれしかったそうだ。

ジャマイカは自然が豊かで陽気な人々の国である一方、犯罪率の高い国のひとつでもある。銀行、スーパーマーケットには、M16の自動小銃を携行しているガードマンが常にいるし、ランニング・クラブの早朝練習コースでは、先頭と最後尾に武装ガードマンがつくことも驚きだったそうだ。

日本からの観光客にアドバイスするとしたら「ジャマイカ人の人懐っこさと大自然を満喫してほしい。ただし、きれいな洋服で街中を歩きまわらない。知らないところには単独では決して行かないこと。ガイドに頼った方がいいと思います」

柿内さんは、ジャマイカ赴任中に現地の人達と一緒にランニングをして、走る楽しさを知り、2016年にはネグリルでのレゲエ・マラソンにも参加した。ジャマイカで体験した走る楽しみは、帰国してからも続いていて大会に参加したり、地元のマラソン大会などでは運営スタッフとしても活動している。

日本とはまったく異なるジャマイカでの文化体験をとうして、たとえ裕福でなくても老後の心配をしているジャマイカ人はいないという事を目の当たりにし、無要な心配は意味がない事「ノープロブレム」に気づいたし、ジャマイカよりはるかに裕福な日本に蔓延る老後の心配などの悲観的な思いから脱却できた事は、大きかったと言う。

将来の夢は「時間ができてジャマイカに戻る事ができたら、Sea Island Cottonの縫製産業を育てたいですね」

あまり知られていないが、柔らかい肌ざわりのよい、吸水性に富んで強くてしかも軽いコットンがジャマイカで育っている。「それをジャマイカで仲間とともに製品化してジャマイカの一大産業として育てたい。そしてジャマイカの貧富の差を解消したい」

柿内さんは、こんな大きな夢を追い続けている。

コンタクト

Email:kaki.0204.taka@gmail.com


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